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東京高等裁判所 平成4年(行ケ)131号 判決

ドイツ連邦共和国8070 インゴルシュタット

オートーウニオーンーシュトラーセ 1

原告

アウディ アクチェンゲゼルシャフト

代表者

クラウス レー フランク

訴訟代理人弁理士

森本義弘

原田洋平

笹原敏司

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 麻生渡

指定代理人

土井清暢

吉田秀推

中村友之

涌井幸一

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

この判決に対する上告のための附加期間を90日と定める。

事実及び理由

第1  当事者の求める判決

1  原告

特許庁が平成1年審判第17729号事件について、平成4年2月17日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文第1、第2項と同旨

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

(1)  訴外アンドレアス フレックは、1983年12月24日にドイツ連邦共和国においてした特許出願に基づく優先権を主張して、昭和59年11月27日、名称を「車体構造」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願をした(昭和59年特許願第251422号)が、平成元年6月12日に拒絶査定を受けたので、同年10月30日、これに対し不服の審判の請求をし、特許庁は、同請求を平成1年審判第17729号事件として審理した。

(2)  原告は、上記訴外人から平成2年2月10日に特許を受ける権利を譲り受け、同年3月9日、特許庁長官に対し、特許出願人名義変更届を提出した。

(3)  特許庁は、上記審判事件につき、平成4年2月17日「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は同年3月12日、原告に送達された。

2  本願発明の要旨

別添審決書写し記載のとおりである。

3  審決の理由

別添審決書写し記載のとおり、審決は、本願発明の優先権主張の基準日より前に、我が国において頒布された刊行物である特開昭46-5855号公報(以下「引用例1」という。)及び実願昭55-43926号(実開昭56-146633号)のマイクロフィルム(以下「引用例2」という。)を引用し、本願発明は、引用例1、2及び周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないと判断した。

第3  原告主張の審決取消事由の要点

審決の理由のうち、引用例1及び引用例2の記載内容の認定、本願発明と引用例1との一致点及び相違点の認定並びに相違点〈1〉の判断は、いずれも認める。

しかしながら、審決は、相違点〈2〉の判断を誤った結果、本願発明の容易想到性判断を誤り(取消事由1)、また、審決は、拒絶査定の理由と異なる理由に基づいて、本件審判の請求を成り立たないとしたにもかかわらず、審判段階では何ら拒絶の理由の通知をしなかった特許法159条2項違反の手続違背がある(取消事由2)から、違法として取り消されるべきである。

1  取消事由1(相違点〈2〉の判断の誤り)

審決は、「車軸のためのショックアブソーバなどの緩衝装置を収容するための収容部を車体の車軸近傍の適宜な構造部材に設けることは、その構造上当然のことである。」とし(このことは、原告もあえて争わない。)、これに続いて、「その際に収容部を、該収容部を形成すべき構造部材と一体的に形成することは周知のことである。」とし、この周知事項の例示として、特公昭51-21218号公報(以下「周知例1」という。)、実公昭46-11205号公報(以下「周知例2」という。)及び実公昭53-22881号公報(以下「周知例3」という。)を挙げている。

しかし、一般に自動車の車体は、主として車体の骨組みを構成する骨格構造部材と、主として車体の外板を構成する板状構造部材とによって形成されているところ、周知例1には、緩衝装置3、4、・・・の収容部が車体1そのものに一体的に形成されているもの(第1図)が、周知例2には、緩衝装置3、4・・・の収容部が車体壁2そのものに一体的に形成されているもの(第1図)が、また、周知例3には、従来公知の板金製のタイヤハウス4にショックアブソーバ5の固定部4aが設けられているもの(第1、第2図)が記載されているにすぎず、いずれも、緩衝装置の収容部が板状構造部材に設けられているものであって、本願発明のように骨格構造部材に設けられているものは示されていない。

まして、本願発明のように、骨格構造部材である複数の管材と、これら管材どうしを互いに連結させるための軽金属の結節部材を、車輌の後軸のためのショックアブソーバなどの緩衝装置の収容部を兼ねるように形成するという技術思想はもとより、このような構成によって、部品点数を低減することを可能とし、しかも結節部材の多機能化を図るという構成は、全く示唆されていない。

したがって、本願発明のように、骨格構造部材が緩衝装置の収容部を兼ねるように形成された点は、審決のいうように周知の事項ではない。

審決は、周知例の記載事項を誤認し、それにより、相違点〈2〉の判断において、本願発明が引用例1、2と周知事項に基づいて容易に想到できるものと誤って判断した。

2  取消事由2(特許法159条2項違反)

本願に対する平成元年6月12日付け拒絶査定の理由の要点は、平成元年4月24日付け手続補正書(甲第3号証)に記載された特許請求の範囲の記載に対応して記載された「敷居を前部ドア支柱及び前部縦桁と接合する管材による結節部材を設けた点については、拒絶理由に引用した刊行物Ⅱに記載の連結部材24、28(Fig1の部材12bと部材16(各々「前部縦桁」と「敷居」に相当する。)を連結している図面左方に示されたもの)が前記結節部材に相当するものと認められ、本願発明は、拒絶理由に引用した各刊行物に記載のものに基づいて容易になし得たものと認められる。」(甲第4号証)というものである。

これに対し、本件審決の拒絶の理由は、上記第2、2の本願発明の要旨に記載した特許請求の範囲を前提として、上記のとおり、車軸のためのショックアブソーバなどの緩衝装置の収容部を形成すべき構造部材として、結節部材を選定したことに格別の意義を認めることはできないというにある。

このように、審決は、審判講求に係る拒絶査定の理由と全く異なる理由によって、本件審判請求は成り立たないものとし、本願出願を拒絶したものであり、その際、審判において、審決の理由とする拒絶理由の通知は行われていない。

この場合、もし、その旨の拒絶理由が通知されれば、原告は、特許法17条の2第3項に基づく記載の補充、例えば骨格構造部材を構成する結節部材が緩衝装置の収容部を兼ねるようにしたことによって、緩衝装置の収容部を板状構造部材に形成する場合に比べ、剛性や強度に優れた構造とすることができ、大きな衝撃懸架荷重を支持することができる本願発明の格別の効果の記載を補充することができたはずである。

したがって、審判手続において、原査定の拒絶理由と異なる拒絶理由が発見されたにもかかわらず、この旨を通知して意見書を提出する機会を与えることなくなされた審決は、特許法159条2項に違反して手続がなされた違法がある。

第4  被告の主張の要点

審決の認定判断は相当であり、その手続にも違法はない。

1  取消事由1について

審決は、車軸のための緩衝装置は、車軸と車体間の衝撃を緩衝するためのものであるから、車軸とその車軸近傍の車体の構造部材との間に設けることは当然であり、そして、車体の構造部材に緩衝装置の収容部を形成するとき、該構造部材と一体的に収容部を形成することは周知であるとしたものである。

周知例1ないし3において、緩衝装置の収容部を一体的に形成したものは、いずれも車体を構成する構造部材であり、本願発明においても結節部材は車体を形成する構造部材であって、該収容部を形成する対象物を「車体」と呼ぶか、「車体の構造部材」と呼ぶかは、単なる称呼の相違にすぎない。

したがって、緩衝装置の収容部を一体的に形成する箇所が周知例のものでは「車体」、「車体壁」、「タイヤハウス」であり、本願発明が「車体の構造部材」である点で相違するとの原告の主張は、事実上差がないものを相違するとする点で当をえないものである。

原告は、構造部材のうち、「骨格構造部材」に緩衝装置の収容部を一体的に形成した点に本願発明の特徴がある旨主張するが、もともと、本願明細書においては、構造部材を原告主張のように骨格構造部材と板状構造部材とに区別して記載しているものではなく、収容部の形成箇所を板状構造部材に形成することを排除する旨の記載があるわけでもない。そして、緩衝装置を形成する際、その形成箇所の近傍に、骨格構造部材と板状構造部材が存在するのであれば、それぞれの強度、剛性、緩衝装置を収容するうえでの利便性等種々の条件を考慮して、いずれかを選定すればよいことは当業者に自明のことであるし、審決が周知としたのは、原告のいう骨格構造部材に収容部を形成することではなく、両者を含む構造部材に収容部を形成することが周知であるとしたものである。

そして、本願発明では、緩衝装置の収容部を一体的に形成する対象として、構造部材の一部である結節部材を選定しているが、そのことによる効果が「収容部を別材で構成する場合に比べて、部品点数を低減できる」というものであってみれば、かかる効果については、構造部材に収容部を一体的に構成した前記周知例においても同様の効果を奏しているものであり、結局、収容部を形成する構造部材として結節部材を選定したことに格別の意義を認めることはできないとした審決の相違点〈2〉の判断は相当である。

2  同2について

原告は、昭和63年12月20日付け拒絶理由通知書において、本願発明は、その出願前に頒布された刊行物に記載された発明から容易に発明をすることができたものであるとの通知を受けたため、平成元年4月24日付け手続補正書(甲第3号証)記載のとおり、特許請求の範囲その他の補正を行い、さらに、拒絶査定に対する本件不服審判を請求するに当たり、平成元年11月29日付け手続補正書(甲第7号証)により、明細書の特許請求の範囲等を補正している。

そして、審決が引用した引用例1、2は、拒絶査定においても拒絶の理由として掲げられており、かつ、当該引用例に記載された技術的事項に関する認定においても、拒絶理由及び拒絶査定と審決との間に格別の相違はない。

原告は、審判請求に当たり、上記引用例を知ったうえで明細書の補正を行ったものであり、審判においては、補正された特許請求の範囲の記載についても、なお拒絶査定の拒絶の理由に引用された引用例1、2により拒絶すべきものであるとし、明細書の補正に対応して査定における拒絶の理由とした引用例1、2に加え、周知技術を付加して審決がなされたものであるから、審決の理由は、同法159条2項にいう査定の理由と異なる拒絶理由に当たるものではなく、改めて拒絶の理由を通知する必要はない。

したがって、審決に原告主張の手続の違法もない。

第5  証拠

本件記録中の書証目録の記載を引用する(書証の成立については、いずれも当事者間に争いがない。)。

第6  当裁判所の判断

1  取消事由1について

甲第11ないし第13号証によれば、周知例1には、車輌用油圧緩衝器が車体1に直接固定された構造のものが、周知例2には、車輪懸架装置の収容部が車体壁2に直接固定されたものが、周知例3には、ショックアブソーバの上端をその上部の車体中央寄りに固定させる構造を備えたタイヤハウスが記載されていることが認められ、車軸のためのショックアブソーバなどの緩衝装置は、自動車の振動を緩和して、乗り心地の向上、積み荷の保護、車体各部の動的応力の低減を図り、タイヤの接地性を高めて操縦性、安定性を向上させ、悪路での衝撃を緩和するという機能と目的を有することは、当裁判所に顕著である。

このような緩衝装置は、その機能と目的からして、車体と車軸との間に設けられなければならず、その収容部を車軸近傍の適宜の構造部材に設けることがその構造上当然のことであることは、原告もこれを認めるところである。

原告は、周知例には緩衝装置の収容部が板状構造部材に設けられたものだけが記載されているとし、本願発明のように骨格構造部材に設けられること、まして、骨格構造部材に含まれる結節部材が緩衝装置の収容部を兼ねる技術思想や構成は周知ではないと主張する。

しかしながら、一般に車体の構造部材が主として車体の骨組みを構成する骨格構造部材と主として車体の外板を構成する板状構造部材とからなることは、当事者間に争いがなく、上記周知例1ないし3には、緩衝装置の収容部を一体的に形成した箇所が、それぞれ「車体1」、「車体壁2」、「タイヤハウス4」であることが示されていること上記認定のとおりであるから、これらは、いずれも緩衝装置の収容部を車体の構造部材に設けた構造ということができる。したがって、「収容部を、該収容部を形成すべき構造部材と一体的に形成することが周知のことである」とした審決の認定に誤りはない。

また、周知例3(甲第13号証)には、ショックアブソーバの上端をその上部の車体中央寄りに固定させる構造を備えたタイヤハウスが記載されており、このタイヤハウスは、タイヤハウス本来の機能に加え、緩衝装置の収容部を兼ねていることが認められ、緩衝装置の収容部を車軸近傍の適宜な構造部材に設ける際、その近傍に板状構造部材と骨格構造部材とが存在するのであれば、それぞれの強度、剛性、収容スペース等種々の条件を勘案して、そのうちのいずれかを選択することは、当業者にとって自明な単なる設計事項にすぎないと認められるから、本願発明のように、緩衝装置の収容部を骨格構造部材に含まれる結節部材に設け、結節部材で収容部を兼ねさせる構造とすることは、当業者が容易に想到できたことというべきである。

そして、このようにすれば、本願発明の明細書に記載されているように、「これらを別体で構成する場合に比べ、部品点数を低減することが可能となる」(甲第7号証4頁18~19行)という効果を奏するばかりでなく、骨格構造部材と板状構造部材とを比較すれば、一般に前者の方が後者よりも、剛性や強度に優れていることは自明のことと認められるから、原告が本願発明の格別の効果として主張する緩衝装置の収容部を板状構造部材に形成する場合に比べ、剛性や強度に優れた構造とすることができ、大きな衝撃懸架荷重を支持することができる効果を奏することも、当然に予測される自明の効果にすぎないと認められる。

結局、「収容部を形成すべき構造部材として結節部材を選定したことに格別の意義を認めることはできない」、「本願発明の効果についても、引用例1と引用例2に記載された発明及び周知技術から予測される範囲を越えるものとも認められない」とした審決の判断は相当である。

原告の取消事由1の主張は理由がない。

2  同2について

本願に対する拒絶査定の理由が、平成元年6月12日付け拒絶査定謄本(甲第4号証)に記載されたとおりのものであり、その「備考」欄には、「敷居を前部ドア支柱及び前部縦桁と接合する管材による結節部材を設けた点については、拒絶理由に引用した刊行物Ⅱに記載の連結部材24、28(Fig1の部材12bと部材16(各々「前部縦桁」と「敷居」に相当する。)を連結している図面左方に示されたもの)が前記結節部材に相当するものと認められ、本願発明は、拒絶理由に引用した各刊行物に記載のものに基づいて容易になし得たものと認められる。」と記載されていること、審判手続において、審決の理由とした点につき新たに原告に拒絶の通知をしなかったことは、いずれも当事者間に争いがない。

上記争いのない事実と甲第2、第3、第7号証によって認められる本願明細書の補正の経緯及び甲第4号証によって認められる特許庁の対応経緯によれば、願書に添付された当初の明細書に記載された本願発明につき、特許庁審査官は、昭和63年12月20日付け拒絶理由通知書において、本願発明は、特開昭46-5855号公報及び実願昭55-43926号(実開昭56-146633号)のマイクロフィルム(審決の引用例1、2と同じ刊行物)に記載のものに基づいて容易になしえたものと認められるとの拒絶理由を通知したこと、これに対し、原告は、平成元年4月24日付け手続補正書(甲第3号証)記載のとおり、本願明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載を補正したこと、これに対し、特許庁審査官は、平成元年6月12日付け拒絶査定において、「この出願は、昭和63年12月20日付け拒絶理由通知書に記載した理由にょって拒絶をすべきものと認める。なお、意見書及び手続補正書の内容を検討したが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせない。」としたうえ、上記補正書によって補正された特許請求の範囲の要点である「車体構造の両側には、敷居を前部ドア支柱および前部縦桁と接合する結節部材が設けられ、この結節部材の一端は敷居および前部ドア支柱を受けており他端は距離をおいて位置する前部縦桁を受けていることを特徴とする」点に対応して、上記「備考」欄の記載をしたこと、原告は、上記拒絶査定に対する不服の審判を請求するに当たり、平成元年11月29日付け手続補正書(甲第7号証)記載のとおり、本願明細書の補正を行い、この結果、本願発明の特許請求の範囲が審決認定のとおりのものとなったことが認められる。

そして、審決が、このようにして補正された特許請求の範囲の記載を前提として、原査定の拒絶の理由で引用した刊行物と同一の引用例1、2を引用し、引用例1と本願発明の相違点〈1〉〈2〉について判断し、特に相違点〈2〉について、新たに3件の周知例を挙げて、収容部を形成すべき構造部材として結節部材を選定したことに格別の意義を認めることはできないとの判断を加えたことは、審決の理由に記載されたとおりである。

以上の事実によれば、本願を拒絶すべきものとする理由は、当初の拒絶理由通知、拒絶査定及び審決を通じ、一貫して、本願発明は、引用例1、2の発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたというにあることは明白であり、審決における周知例を挙げての相違点〈2〉の判断も、原告の審判請求の際の補正に対応して、周知技術を付加して判断を加えたものにすぎないことが明らかである。

そうすると、審決において本願発明が特許を受けることができないとした理由は、拒絶査定におけるそれと何らの相違がないから、これが異なることを前提にして手続違背をいう原告の主張は理由がない。

3  以上のとおり、原告主張の取消事由は、いずれも理由がなく、他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。

よって、原告の本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担、上告のための附加期間の定めにつき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条、158条2項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 山下和明 裁判官 木本洋子)

平成1年審判第17729号

審決

ドイツ連邦共和国 8070 インゴルシュタット オートーウニオーンーシュトラーセ 1

請求人 アウディ アクチェンゲゼルシャフト

大阪府大阪市西区西本町1丁目10番10号 西本町全日空ビル4階森本特許事務所

代理人弁理士 森本義弘

昭和59年特許願第251422号「車体構造」拒絶査定に対する審判事件(昭和60年7月18日出願公開、特開昭60-135375)について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

理由

(Ⅰ)本願は昭和59年11月27日(優先権主張1983年12月24日、ドイツ連邦共和国)の出願であって、その発明の要旨は、平成1年11月29日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、詩許請求の範囲第1項に記載されたとおりの、

「軽金属製の押出成形体からなる複数の管材と、これら管材の端部とはめ合い結合することによりこれら管材どうしを互いに連結させるための軽金属製の結節部材とを構造部材として含み、前記結節部材が、車両の後軸のためのショックアブソーバなどの緩衝装置の収容部を兼ねるように形成されていることを特徴とする車体構造。」

にあるものと認められる。

(Ⅱ)これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された特開昭46-5855号公報(以下、「引用例1」という)には、「複数の鋼管材と、これら管材の端部とはめ合い結合することによりこれら管材どうしを互いに連結させるための軽金属製の結節部材とを構造部材として含む車体構造」が記載されており、また、同じく実願昭55-43926号(実開昭56-146633号)のマイクロフィルム(以下、「引用例2」という)には、「車体フレームをアルミニウム製形材により構成した車体構造」が記載されている。

(Ⅲ)本願発明と引用例1に記載された発明とを対比すると、両者は、「複数の管材と、これら管材の端部とはめ合い結合することによりこれら管材どうしを互いに連結させるための軽金属製の結節部材とを構造部材として含む車体構造」で一致し、

〈1〉本願発明が、管材を軽金属製の押出成形体から構成したのに対し、引用例1の発明では鋼管である点

〈2〉本願発明では、結節部材が車両後軸のためのショックアブソーバなどの緩衝装置の収容部を兼ねるように形成されているのに対し、引用例1の発明ではこのようになされていない点

で相違する。

(Ⅳ)上記相違点について検討すると、

相違点〈1〉について、

車体フレームを軽金属製形材で構成するすることは、上記のように引用例2に記載されているので、これを引用例1の発明に適用して、管材を軽金属製とすることは当業者が容易に想到し得ることであり、また、形材を押出成形によって成形することが周知であってみれば、該管材を押出成形体とすることは、単なる周知技術の付加にすぎない。

相違点〈2〉について、

車軸のためのショックアブソーバなどの緩衝装置を収容するための収容部を車体の車軸近傍の適宜な構造部材に設けることは、その構造上当然のことである。その際に収容部を、該収容部を形成すべき構造部材と一体的に形成することは周知のことである(例えば、特公昭51-21218号公報、実公昭46-11205号公報、実公昭53-22881号公報(第1、2図)等参照)。そして、結節部材に収容部を形成したことによる効果も「収容部を別体で構成する場合に比べて、部品点数を低減できる」というものであってみれば、かかる効果は、上記周知技術においても同様に奏せられているものである。してみると、収容部を形成すべき構造部材として結節部材を選定したことに格別の意義を認めることはできない。

そして、本願発明の効果についても、引用例1と引用例2に記載された発明及び周知技術から予測される範囲を越えるものとも認められない。

(Ⅴ)したがって、本願発明は、引用例1及び引用例2の発明そして周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものと認められるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。

平成4年2月17日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

請求人被請求人 のため出訴期間として90日を附加する。

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